結論から述べますと,以下のとおりです。
説明しましょう。
定めをした時点では成年=20歳なので,その時点での当事者の意図は「子が20歳に達するまで」ですね。
この場合に,養育費の支払期間に変更なし,子が20歳に達するまで,とすることには,ほぼ異論はないのではないかと思います。
裁判所サイドの考え方として,司法研修所編『養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究』56頁にこの考え方が示されています。
少し考え方の整理が必要です。
「未成年/成年」と「未成熟子」を区別します。
裁判所の考え方では,養育費が発生するのは,「未成熟子」に対して親が扶養義務を果たす必要があるからです。子が未成年だから,ではないのですね。
「未成熟子」とは,経済的に自立するに至っておらず,自分の財産や収入で生活できる能力がまだない子を指します。
これまでの裁判実務上では,原則として子が20歳に達するまでを未成熟子としてきました(もちろん例外もあって,高等教育期間に進学した場合などに20歳以降も養育費を認めるケースもありました)。
つまり,これまでは,未成年=未成熟子,という考え方でした。
成年年齢が18歳になると,この等式が崩れます。「成年だが未成熟子」という場合を考える必要が出てきます。
成年年齢が変わったからといって,社会経済の状況が急に変わるわけではなく,子が18歳から経済的に自立するのが通常になるわけではないからです。
おそらく,裁判所の考え方は,
「これまでの裁判実務では子が20歳に達するまでを未成熟子としてきた」
「社会の実態が法改正で急に変わるわけではない」
「よって,成年年齢引き下げ後も,養育費の支払期間は原則として子が20歳に達するまでとすべき」
となるのではないかと思います。
裁判所サイドの考え方として,前述の司法研修所編『養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究』61頁がありますが,次のとおり,⑴よりも歯切れが悪い印象があります。
・・・改正法の成立または施行後において,子の経済的に自立する時期や一般的,社会的に見て子がその自立を期待されている時期をどのように認定,判断すべきかを検討すると,(中略)
今後社会情勢等が変化しない限り,子が幼い事案など,子が経済的自立を図るべき時期を異なる時点と特定して認定,判断すべき事情が認められない事案においては,
未成熟子である期間について,改正法の成立または施行前と異なる認定,判断をする必要はなく,
従前のとおり,満20歳に達する日(またはその日の属する月)までとされることになると考えられる。
いずれにしても,今後の実務では,養育費の支払期間を定めるときに,「子が成年に達するまで」ではなく「子が○○歳に達するまで」と明記することになるでしょう。
また,細かいところで論点になりそうな点があります。
子が18歳になった後の期間の養育費の請求や授受の方法をどう考えるか,ということです。
法律上は,成年になれば親の親権から外れますので,子自身が養育費を請求できます。この場合,厳密には養育費でなく「扶養料」の請求です。
そうすると,仮に「子が20歳に達するまで」と養育費を定めた場合,子が18歳になった以降は誰に払うべきでしょうか?
あるいは,子が「18歳以降は自分に払ってほしい」と求めた場合はどうでしょうか?
さらに,「子が20歳に達するまで」と養育費を定めた場合に,養育費の義務親が18歳になった子との間で話合いをして減額をしようとしたらどうなるでしょうか?
(※なお,扶養請求権は放棄できませんので(民法881条),18歳になった子との間で免除の合意をしてもそれは無効と考えられます。)
18歳以降は子との間でやりとりをする,ということは法的にはいちがいに不当とはいえませんが,濫用的に使われる可能性もあります。
18歳以降は子に直接支払う,という取り決めを,父母の離婚のときに父母間で取り決めるなら問題ないでしょう。
子が18歳になった後に,養育費の義務親が一方的にそう求めるのは,疑義があると感じますが,理屈としては整理が必要です。
今後の裁判実務に注目していく必要があります。
弁護士 圷悠樹(佐賀県弁護士会所属)
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