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弁護士法人いまり法律事務所

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相続放棄をするときに[して構わないこと]と[してはいけないこと]

はじめに要点をまとめます。

【相続放棄をする場合にしてはいけないこと】

  1. 処分行為(民法921条1号柱書)
    • 法律上の処分(遺産の売却など)のほか,事実上の処分(物品を壊すなど)も含む。
    • 保存行為(後記)や,一定の期間内の賃貸借(民法602条)は含まない。
  2. 相続財産の隠匿や費消など(民法921条3号)
    • 相続放棄の趣旨に反する背信行為にあたるもの。
    • 利害関係人に損害を与えうる行為(詐害的行為)で,その意識・認識があるもの。

【相続放棄をする場合にして構わないこと】

  1. 相続財産の調査(民法915条2項)
    • 例えば,金融機関等への死亡の届出,残高証明書の取得。
  2. 相続財産の管理(民法918条1項)
    • 基本的には,保存行為(後記),利用行為・改良行為を指す(民法28条,同103条)。一定の期間内の賃貸借(民法602条)も利用行為の一種。
    • ※利用行為・改良行為・・・目的の物または権利の性質を変えない範囲内において,その利用または改良を目的とする行為
  3. 保存行為(民法921条1号但書)
    • 財産の現状を維持する行為。例えば,家屋の修繕・消滅時効の中断・期限の到来した債務の弁済・腐敗しやすいものの法律上の処分(売却など)。

さて,問題はここからです。実際の場面でどう判断するのか,ということです。

例えば,以下のような場面ではどうでしょうか。

  1. 遺品の形見分け
    • ⇒ケースバイケース,一般的経済的価値/交換価値があるかどうかによる(大審院判決昭和3年7月3日。使用価値があっても交換価値がなければ処分とはみられない,とした裁判例もあり)。貴金属などは避けた方が無難。
  2. 相続財産から葬儀費用を支払うこと
    • ⇒基本的には問題なし(大阪高決H14.7.3「相続財産から葬儀費用を支出する行為は,法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)には当たらない・・・」)
  3. 相続財産から墓石購入費用を支払うこと
    • ⇒ケースバイケースだが,避けた方が無難(大阪高決H14.7.3「(相続人が,相続財産である)本件貯金を解約し,その一部を仏壇及び墓石の購入費用の一部に充てた行為が,明白に法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)に当たるとは断定できない・・・」)
  4. 相続財産から相続債務を支払うこと
    • ⇒ケースバイケースだが,避けた方が無難(明確な裁判例なし,学説は争いあり)。もっとも,相続人自身の財産から相続債務を支払うことは問題なし。
  5. 時効中断のために相続財産中の債権の請求をして弁済を受領すること
    • ⇒ケースバイケースだが,避けた方が無難(最判昭和37年6月21日は,相続人が相続放棄前に相続財産である売掛金債権を取り立てて収受領得した行為を「相続財産の処分」に当たるとした)。
      もっとも,弁済の受領も時効中断の効力があるので,相続財産の減少につながらなければ,保存行為の範囲内で問題なし,とされる可能性もあり。
      例えば,被相続人名義の口座で死亡の届出前のものを振込先に指定するなど,工夫の余地ありと考えられる。
  6. 相続財産である自動車を使用する人がいないので処分したい
    • ⇒ケースバイケース。自動車自体の経済的価値,維持費・監理費(自動車税や駐車場代など)の金額や発生時期,廃車か売却か,などの事情による。
      経済的価値がない自動車の廃車は,費用発生を避ける保存行為といえるので基本的には問題なし。
      経済的価値がある自動車の売却は,基本的には避けた方が無難。ただし工夫の余地もありそうなので,やむを得ないケースではできるだけ専門家に相談を。

 

ケースバイケースの場面での判断は,私たち法律家の守備範囲です。
疑問がある場面では,できるだけ専門家にご相談ください。

なお,相続放棄について,補遺的な点を2つ。
まず,相続放棄申述書を受け付けた家庭裁判所は,「相続財産の処分」などの単純承認事由をどの程度調査するのか,ということです。

現在の実務上は,相続放棄の形式的な要件を満たしているかどうか,というレベルの調査にとどまる可能性が高く,「相続財産の処分」の有無などの単純承認事由を積極的に調査する可能性は低い,といえます。

もっとも,その裏返しとして,相続放棄が受理されたとしても,その効力は終局的なものではありません。被相続人の債権者などが相続放棄の効力を争う場合は,別途裁判手続をとることで争うことが可能です。

【参考】大阪高決H14.7.3

相続放棄の申述の受理は,家庭裁判所が後見的立場から行う交渉的性質を有する準裁判行為であって,申述を受理したとしても,相続放棄が有効であることを確定するものではない。
相続放棄等の効力は,後に訴訟において当事者の主張を尽くし証拠調べによって決せられるのが相当である。
したがって,家庭裁判所が相続放棄の申述を受理するにあたって、その要件を厳格に審理し,要件を満たすもののみを受理し,要件を欠くと判断するものを却下するのは相当でない。
もっとも,相続放棄の要件を欠くことが明らかな場合まで申述を受理するのは,かえって紛争を招くことになって妥当でないが,明らかに要件を欠くとは認められない場合には,これを受理するのが相当である。

次に,相続人が相続放棄をした後でも,相続財産の管理は継続する必要があります。
いつまでかというと,次順位の相続人か相続財産管理人が管理を始めることができるようになるまで,です。

【参考】民法940条1項
相続の放棄をした者は,その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで,自己の財産におけるのと同一の注意をもって,その財産の管理を継続しなければならない。

例えば,相続財産として老朽化した空き家がある場合,相続人が相続放棄をしたとしても,次順位の相続人か相続財産管理人に管理を引き継ぐまでは,管理を継続する必要があるということになります。

弁護士 圷悠樹(佐賀県弁護士会所属)

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