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弁護士法人いまり法律事務所

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ワクチンによる健康被害の救済制度

本稿の話題は,本来は国が責任を持って広報すべきことだと思います。
公的な資料で,新型コロナワクチン接種の文脈で健康被害救済制度のことをきちんと説明したものがほとんど見当たらなかったので,備忘もかねて調べてみました。

周知のとおり,新型コロナワクチンは,公費・自己負担なしでの接種になっています。
これは,予防接種法上の臨時接種の位置づけです。新型コロナワクチンの特例措置もあります。

予防接種法の条文を見てみましょう。

  • 第一条 この法律は、伝染のおそれがある疾病の発生及びまん延を予防するために公衆衛生の見地から予防接種の実施その他必要な措置を講ずることにより、国民の健康の保持に寄与するとともに、予防接種による健康被害の迅速な救済を図ることを目的とする。
  • 第二条 2項(A類疾病) ※ジフテリア・百日せき・麻しん・結核など
    十二 前各号に掲げる疾病のほか、人から人に伝染することによるその発生及びまん延を予防するため、又はかかった場合の病状の程度が重篤になり、若しくは重篤になるおそれがあることからその発生及びまん延を予防するため特に予防接種を行う必要があると認められる疾病として政令で定める疾病
  • 同 3項(B類疾病) ※インフルエンザなど
    二 前号に掲げる疾病のほか、個人の発病又はその重症化を防止し、併せてこれによりそのまん延の予防に資するため特に予防接種を行う必要があると認められる疾病として政令で定める疾病

予防接種の目的には,集団予防・社会防衛と,個人予防と,ふたつの側面があるといわれます。
上記のA類疾病は,集団予防の性格が強く,B類疾病は,個人予防の性格が強いといえそうです。

集団予防は,社会全体の利益のために個人にリスクを負わせる,ということだともいえます。
実際,A類疾病に対する予防接種は,昔は罰則付の義務とされていました(現在は努力義務で罰則はなし)。

臨時接種とされる新型コロナワクチンも,「新型コロナウイルス感染症のまん延予防上緊急の必要がある」という位置づけで,社会防衛・集団予防の性格が強いものです。

 

一方で,ワクチンの意義を個人予防中心に捉えるか,集団予防中心に捉えるかは,実は,個々人のおかれた状況によって異なるものです。
家族や職場など周囲の人に感染させないため,という観点も,集団予防の一種といえると思いますが,周囲の人への感染リスクも,個々人の状況によって異なるでしょう。

新型コロナワクチンについても,新型コロナ感染による重症化リスクが高いグループほど個人予防の性格が強くなり,重症化リスクが低いグループほど集団予防の性格が強くなります。
ですから,人によって捉え方が違うのは当たり前ですし,重症化リスクが高いグループから低いグループへと接種が進むにつれ,ペースが鈍化するのも当たり前でしょう。
国として,重症化リスクが低いグループにもワクチン接種をすすめる以上,健康被害救済制度の広報はきちんとするべきだと思います。

なお自分自身は新型コロナワクチンを接種する派ですが,一方で,集団の生存戦略としては,一定割合で接種しないグループがいることはそれなりに合理的だとも考えます。
予防接種法上は,努力義務はあるが強制はされない,という位置づけですし,各人が個人予防と集団予防の利益とリスクを考慮して,判断するべきことなのではないでしょうか。

 

さて,本題の,健康被害救済制度について。

現在進行中の新型コロナワクチンは,その接種による副反応で健康被害が起きた場合は予防接種法による「予防接種健康被害救済制度」の対象になる,と広報されています。

問題は,制度の詳しい説明が少ないことです。
公表資料では以下のように説明されています。

  1. Q 副反応による健康被害が起きた場合の補償はどうなっていますか(厚生労働省Webサイト)
  2. 予防接種後健康被害救済制度(厚生労働省Webサイト)
  3. ご存じですか? 予防接種後健康被害救済制度(厚生労働省リーフレット)
 

健康被害救済制度の対象になるのは,次の場合です。

  1. ⑴予防接種法上の定期/臨時の予防接種を受けた人に,疾病・障害などの健康被害が生じた場合で,
  2. ⑵⑴の健康被害が予防接種を受けたことによる(=予防接種と因果関係がある)と厚生労働大臣が認定した場合

申請手続は,市町村に対して行います。支給が認められるためには,⑵の厚生労働大臣の認定が重要になります。
認定のプロセスで,厚生労働省から第三者により構成される審査会(疾病・障害認定審査会)に意見聴取がなされます。

ですから,ポイントは,⑵の予防接種と健康被害の因果関係の認定の考え方はどんなものか,ということになります。
それで,その考え方ですが・・・ここが明確に説明されている資料が少ないですね。

厚生労働省下の審議会レベルの資料では,次のように述べられています。

  1. 健康被害救済制度について(第37回 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会 資料)

審査会では,次のような審査方針をとっているといいます。

  1. 個別の事例ごとに,医学的な因果関係の有無を専門的に評価する。
  2. 症状の発生に医学的な合理性があるか,時間的密接性があるか,他の原因によると考える合理性がないか,などを検討する。
  3. 厳密な医学的な因果関係までは必要とせず,「接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない」場合も救済対象とする。

分かりにくいですね。

「医学的な因果関係の有無を専門的に評価する」けれども「厳密な医学的な因果関係までは必要としない」とは,どういうことなのでしょうか?
医学的に一定の説明が可能なこと(医学的な合理性),接種から時間的に近いこと(時間的密接性),他に有力な原因が考えにくいこと,などが認められれば,医学的な因果関係を認める,ということなのでしょうか?

予防接種後に,非常に低確率ながらアナフィラキシーショック(重篤なアレルギーの一種)やギラン・バレー症候群(神経障害の一種)が発生しうる,ということがいわれています。
これらは,従来からいわれているもので,健康被害救済制度が本来想定している場面のように思います。

一方で,新型コロナワクチンの場合,治験を大幅に簡略化して早期に承認されています。
それはつまり,新型コロナワクチン特有の副反応の有無や内容について,従来のワクチンと比べて情報が少ない,ということです。
例えば,報道を見ていると,海外では,統計的に,特定のワクチン接種後に血栓や心筋炎が起きやすいようだ,といわれているようです。
これらは医学的な因果関係が認められるのでしょうか? 「接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない」と判断されるのでしょうか?

 

ここから先は推測ですが・・・国の側でも悩んでいる状況なのかも知れません。それで,新型コロナワクチンの文脈で健康被害救済制度の詳しい説明を避けているのかも知れません。
上記の審議会資料では,日本とアメリカの救済制度の比較があります。

それによると,アメリカ型は,「補償の対象となる症状と発現までの期間がワクチンごとに示されていて(Vaccine Injury Table),この Table に該当する場合は,厳密な医学的因果関係の立証を求めずに速やかに補償される仕組み」とされています。
「厳密な医学的因果関係の立証を求めずに」など,表現がそっくりです。

 

ところがですね。
現在のアメリカの救済制度のVaccine Injury Tableは,2017年5月ころからのもので,新型コロナ(COVID-19)のワクチンが載っていないようなのです。

Vaccine Injury Table – HRSA(HRSA=アメリカ保健資源事業局)

英語の読解にちょっと自信がありませんが・・・any new vaccine recommended by CDC(Tableに記載のない,CDCの推奨する新ワクチン)で補償の対象になるのは,
shoulder injury related to vaccine administration(ワクチン接種に起因する肩の傷害)とvasovagal syncope(血管迷走神経反射)だけしか書かれていません。

アメリカの制度が上記のとおりであれば,新型コロナワクチンは補償の対象外ということになります。しかし,あれほど国を挙げて接種を進めているのに,健康被害の補償はなし,というポリシーで固まっているとも考えにくいです。

アメリカの議論状況はまったく承知していませんが・・・悩んでいるのは日本だけではないのかも知れませんね。

 

【参考】

健康被害救済制度の説明は,HPVワクチンの文脈ではいくつかあります。

HPVワクチンについての一般向けリーフレット(厚生労働省) 救済制度の考え方は7頁
HPVワクチンについての医療従事者向け文書(厚生労働省) 救済制度の考え方は4頁

(引用)
「・・・我が国の従来からの救済制度の基本的な考え方「厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない場合も救済の対象とする」にそって,救済の審査を実施しています・・・」

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