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弁護士法人いまり法律事務所

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むち打ちの後遺障害認定 非該当と14級の境界は?

交通事故のご依頼で,後遺症の検討をするケースで,数としてもっとも多いのがむち打ちの場面です。
そして,後遺症としての認定がすんなりとはいかない場合が多いです。
このテーマで書かれた本も複数あります。

例えば,加藤久道『後遺障害の認定と異議申立ーむち打ち損傷事案を中心としてー』,同『後遺障害の認定と異議申立ーむち打ち損傷事案を中心としてー第2集』など。
これらは専門家向けの内容なので,自分自身の頭の整理も兼ねて,少しbreak downしてみます。

 

1 「後遺症」「後遺障害」「症状固定」などの考え方について

そもそも,むち打ちという症状,あるいは現象は,後遺症という考え方と相性が悪いです。
一般的な意味での後遺症とは,病気やケガの治療後に残る悪い状態や影響で,病気やケガの以前にはなかったもの,といった意味だと思います。

これに対して,法的な損害賠償の場面では,特有の用語として,「後遺障害」という言葉を使います。
損害賠償のための技術的な概念で,後遺症よりも厳密な定義があります(以下のとおり)。

  • ①事故による傷病が治ったときに残存する,
  • ②当該傷病と相当因果関係を有し,
  • ③将来においても回復が困難と見込まれる,
  • ④精神的又は身体的な毀損状態であって,
  • ⑤その存在が医学的に認められ,
  • ⑥労働能力の喪失を伴うもの
    (労災補償障害認定必携(第17版)69頁)

なお,①の「事故による傷病が治ったとき」を,「症状固定」ということがあります。ただし法律用語のニュアンスが強く,医師の先生方はあまり好まないようです。

 

 

2 むち打ちの後遺障害認定基準

さて,むち打ちについては,多くの場合後遺障害を残さずに治癒するとか,軽症例なら1ヶ月以内,重症例でも3ヶ月以内に症状が軽快し,1年以内にほとんど症状が消失する,とかがいわれます。
(「軽快」と「ほとんど症状が消失」と「治癒」は,イコールではないですね)

一方で,受傷の後に,椎間板損傷,神経根症状,バレ・リュー症状(交感神経の異常で,頭痛・めまい・耳鳴り・視障害・首の違和感・疲労を感じやすい・血圧低下などの自覚症状が生じる),脊髄症状が出現した場合には,症状が後遺する可能性がある,ともいわれます。

上記の①~⑥の定義からすると,①「事故による傷病が治ったとき」,③「将来においても回復が困難」,あたりと相性が悪そうですね。
しかし,むち打ちが後遺障害として認定されるケースは,もちろんあります。

可能性があるのは,以下のどれかです(なお,○○級○○号とあるのは,正確には「自賠法施行令第2条別表第二・第○○級○○号」という表現に対する略記です)。

  • 12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」
  • 14級9号「局部に神経症状を残すもの」
  • 非該当

上記のような等級を,後遺障害等級といいます。

交通事故の場合,自賠責保険がその認定を行いますが,認定基準は原則として労災保険における障害の等級認定の基準に準じる,とされています(自賠責保険・共済保険金等の支払基準)。
そこで,労災保険の認定基準(現行)によると,

  • 12級13号・・・通常の労務に服すことはでき,職種制限も認められないが,時には労務に支障が生じる場合があるもの
  • 14級9号・・・12級よりも軽度のもの

とされています。

正直,これではよくわからないですね。
過去の労災保険の認定基準は,もう少し詳しい表現になっています。

労災保険の旧認定基準(平成15年より前のもの)では,

  • 12級13号・・・他覚的に神経系統の障害が証明されるもの/労働には通常差し支えないが,医学的に証明しうる神経系統の機能または精神の障害を残すもの
  • 14級9号・・・他覚的に神経系統の障害が証明されるには至らないが,医学的に説明可能なもの/医学的に証明しうる精神神経学的症状は明らかでないが,頭痛,めまい,疲労感などの自覚症状が単なる故意の誇張ではないと医学的に推定されるもの

とされています。

ここでは,他覚的な証明の有無,が違いのようですね。

 

(1)12級13号のポイント:
⑴画像所見があること,または⑵神経学的所見があることそして⑶⑴または⑵の所見と残存症状に医学的整合性があること

「他覚的に神経系統の障害が証明される」とは,

  • 神経学的検査で反射・筋力・筋萎縮・知覚等の異常所見が認められるか,
  • XP・CT・MRI等の画像検査で異常所見が認められるか,
  • 前記検査と同程度以上の医学的証明で異常所見が認められ,
  • 残存する症状とこれら所見との間に医学的整合性が認められること,

言い換えると「他覚的所見の有無」を意味すると考えられています。

「他覚的所見」とは,一般的には,理学的検査(視診,打診,聴診,触診),画像検査や神経学的検査によって確認される身体的異常,がこれにあたると考えられています。
注意が必要なのは,画像検査による異常所見(画像所見)に限らず,神経学的検査による異常所見(例えば,反射,筋力,筋萎縮,知覚などの異常)であってもよい,ということです。

もちろん,画像検査(CT,MRI,レントゲン・X線など)は,一般的には客観性が高いと考えられていますので,後遺障害の認定に果たす役割は大きいといえます。
しかし,画像所見以外の神経学的異常所見によっても,残存する症状と整合性があって,医学的証明・他覚的証明といえるものであれば,12級13号に該当しうる,ということです。

以上から,12級13号の「他覚的証明」のポイントは,⑴画像所見があること,または⑵神経学的所見があること,そして⑶⑴または⑵の所見と残存症状に医学的整合性があること,と整理できます。

 

(2)14級9号のポイント:
事故直後から症状固定時までの,症状の連続性・一貫性

もっとも難しいのが,この14級9号と,非該当とを分ける基準です。
14級9号にあたる「医学的に説明可能」といえる場合と,非該当となる「医学的に説明可能」といえない場合とを分けるのは何か?

自賠責の後遺障害認定手続では,ほぼ定型的に,判断理由の中で

  • 症状経過,治療状況等
  • 将来においても回復が困難と見込まれる障害(と捉えられるかどうか)

という言葉が使われています。

これだけだと,自賠責がどういう観点から物を見ているのかが分かりにくいですね。
ここからは,分析,推測の次元になりますが,「症状の連続性,一貫性(事故直後から症状固定時までの)」に焦点がある,という見方(前掲の加藤久道著の2書籍など)に,私は説得力を感じます。

要するに,受傷時・治療中・症状固定時を通して,連続・一貫した症状があるか,という観点です。

自賠責の認定手続では,主治医への医療照会として,受傷時・治療中・症状固定時を通じた症状の推移の問合せが行われることが多いですので,上記の見方に整合していますね。
逆にいうと,“治療や症状が連続しない・一貫しない場合は,ネガティブ要因になるともいえますね。

以上から,14級9号の「医学的に説明可能」のポイントは,事故直後から症状固定時までの,症状の連続性・一貫性,つまり,受傷時・治療中・症状固定時を通して連続・一貫した症状があるか,だと考えられます。

 

 

3 最後に

自賠責の後遺障害認定手続では,判断プロセスが外部からはブラックボックスであることもあって,被害者の方が「実際に痛いのになぜ非該当なのか」と不満を持たれるケースもあります。
ですから,実際の認定手続では,初回:非該当 ⇒ 異議申立,というパターンはしばしばあります。

あきらめずトライすることが大事な場面です。

弁護士費用保険(弁護士費用特約)があれば,初回の認定手続から弁護士に依頼できますので,ぜひご検討ください。

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