外国人技能実習生が,自身が産んだ子の遺体を遺棄したとして,死体遺棄容疑で逮捕されたという報道を見ました。
逮捕段階であって無罪推定が働くことを再確認しつつも,幼い児が亡くなったこと,母親の心情,を考えると胸が痛みます。
同時に,この報道には既視感がありました。
調べてみたら,今回の報道は2020年11月ですが,2019年4月にも同様の事件の報道がありました。
同様の事件は他にもあるかもしれません。
外国人技能実習生が実習期間中に妊娠したら,どうなるのでしょうか?
法律的には,答えははっきりしています。
「外国人技能実習生が実習期間中に妊娠したことを理由に,事業主が解雇することはできません。」
外国人技能実習制度は,在留資格と結びついた制度で,通常の雇用とは異なる点もありますが,大原則があります。
それは,
外国人技能実習生と受け入れ先企業との関係は,「期間の定めのある雇用契約」だということ
です。
「雇用契約」ですので,労働関係法令の適用があります。
労働基準法も適用されますし,男女雇用機会均等法も適用されます。
男女雇用機会均等法9条は,次のように定めています。
この規定は,外国人技能実習生にも適用されます。
したがって,外国人技能実習生が実習期間中に妊娠した場合でも,それを理由に解雇することはできませんし,それ以外の不利益な取扱をすることもできません。
関係者としては,本人が実習の継続を希望する場合は,いったん「技能実習の中断」をして,後日「技能実習の再開」をする,という対応になるでしょう。
具体的には,中断時には監理団体を通じて技能実習機構に所定の届出書(技能実習実施困難時届出書)を提出し,再開時には改めて技能自習計画の認定申請をして認定を受け直す必要があります。
中断してもその分実習期間が延長されるわけではありません。
ちなみに,外国人技能実習生の立場が「期間の定めのある」雇用契約だということは,妊娠に限らず,原則として契約期間内に解雇することはできません。
技能実習生側に退職の自由がない,というだけではないのです。
「外国人技能実習制度は雇用調整のための制度ではない」といわれますが,それは建前だけのことではありません。
むしろ,期間の定めのある雇用契約ですから,雇用調整には全然向いていないわけです。
外国人技能実習に関わる関係者にとっては,いろいろ言いたくなるところだろう,とは思います。
外国人技能実習制度の目的は「技能移転を通じた国際貢献」ですから,実習生は技能習得を目的に来日しているはず,ということが建前になります。
実習生がプライベートで妊娠して実習を継続できなくなる,ということは,制度の想定外の事態というべきかもしれません。
実習生の受け入れ先企業も,実習期間中は在籍してくれる,という期待をしているはずです。
設備を準備したり,監理団体に管理費を支払ったりもしています。
実習生が実習期間途中で離脱することで,もっとも影響を受けるのは受け入れ先企業でしょう。
監理団体も,実習の中断や再開(技能実習計画の認定のやり直し)の手続をして,実習生の面倒をみなければなりません。
もっとも,実習生も実習期間が短くなり実習期間の総賃金が減るわけで,母国で借金をしてきているならプレッシャーもかなりのものでしょう。
(そうでなければ,自分の子どもの遺体遺棄のような事件を起こしたりしないでしょう)
そうであっても,現在の技能実習制度が,雇用契約の形態で設計されている以上,実習生が妊娠した場合にも日本人の従業員と同様に,労働関係法令の保護を受けます。
妊娠を理由に解雇することはできませんし,本人の意思に反して帰国させることもできません。
法律的には明確,制度としてそうなっているから,といわざるを得ません。
報道を見ていると,技能実習制度は法律外で回っている部分が大きいのではないか,実習生の妊娠のような事態も法律外でどうにかしようとする力が働いているのではないか,という気がします。
【参考】
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