一般的に,個人(自然人)の債務者が利用できる借金整理の方法は,
があります。
厳密には他にもありますが(特定調停など),主な選択肢は上記の3つです。
さて,個人事業者も,個人(自然人)ですから,上記の3つが基本の選択肢になります。
ただし,個人事業者の場合は,4つめの選択肢もあります(後述)。
個人事業者が借金整理をはかるときの最大の問題は,どの方法を選ぶかの前段階で「事業を続けるか,廃業するか」の決断にあります。
これは借金整理の方法の選択とは別のことで,廃業イコール自己破産/自己破産イコール廃業,とは限りません(そうなる場合も,そうならない場合もあります)。
それでは,事業を続けることを前提にした場合,どんな借金整理の方法があるでしょうか。
まずこの選択肢を考える場合が多いでしょう。
もちろん,収入と負債総額の状況から,返済条件(返済金額及び返済期間)が実現可能な範囲に収まることが条件です。
なお,後述の「第4の選択肢」,「中小企業再生支援協議会の支援制度」は,特殊な任意整理の一種ともいえます。
個人事業者が事業継続しながら借金整理をはかる場合,有力な選択肢になります。
個人再生は,必ずしも財産を手放すことが原則ではありません(いわゆるDIP型(債務者の占有継続型)の手続)。
財産を引き続き保有しつつ,保有財産の評価額相当額以上の弁済総額を弁済する,ということができる手続です。
個人事業者の場合,個人再生手続のうち「小規模個人再生」という類型が検討対象になります。
手続をとるための主な条件は,
です。
「反復して」でもよいので,収入が毎月あるわけではないが毎年一定の時期に収入があるタイプの事業者(例えば農業者)も除外されません。
事業者が個人再生を利用できるかどうかで,収入要件以外でネックになりやすいのは,住宅ローン以外の債務の担保設定がある場合です(不動産担保のほか,リース物件でも同種の問題があります)。
個人再生は,原則として債権者の担保権実行は制限されませんので,事業用資産や不動産に事業性借入の担保が設定されている場合,担保が実行されてしまう可能性があります(むしろ債権者としては担保を実行するのが原則の対応です)。
この問題は,軽々に言えない難しい場面なのですが,担保権者と別除権協定(弁済協定)を結び,共益債権として弁済する等の方法を裁判所に認めてもらうことができれば,担保設定分の債務は約定どおり弁済する形で個人再生手続を進めることも不可能ではありません。
おそらく各地の裁判所で扱いに幅があると思われますので,近隣の弁護士にご相談いただくのがよいと思います。
自己破産したら事業を続けられないのでは,と思う方が多いでしょう。
その懸念はもっともなことです。
自己破産は,原則として保有財産は換価・処分して現金化し,債権者に弁済(配当)する資金とする手続です。
また,事業上の契約(店舗・事務所の賃貸借契約など)も,原則として解消することになります。
それでは,あらゆる個人事業者が自己破産したら廃業しなければならないかというと,そうとも限りません。
例えば,一人親方的な職人や,フリーランスの形態の個人事業者は,仕事を続けながら自己破産の手続をする,ということもあります。
以前の記事(⇒自己破産しても保有できる財産)で取り上げたように,生業不可欠品について,差押禁止財産=破産手続でも保有できる本来的自由財産,として認められる範囲があります。
また,生計を得るために不可欠といえる物品は,自由財産拡張制度により自由財産として認められる可能性もあります。
個人事業者が,自己破産しても事業を続けることができるかどうかは,従業員の有無,賃貸借物件の有無,在庫商品の有無,売上や仕入の形態(特に現金取引の可否)などによります。
ケースバイケースですので,弁護士にご相談いただくのがよいと思います。
なお,資格制限のある職種の場合は別論ですが,分量的に別の話題になるので本稿では取り上げないことにします。
中小企業再生支援協議会については,以前の記事(新型コロナウイルス感染症特例リスケジュール)で取り上げました。
その特例支援だけでなく,協議会による再生計画策定支援,金融機関調整などの支援を受けられます。
ただし,債務の一部でもカットになる場合はハードルが上がるので,どちらかというと債務カットに至らない返済方法の変更に向いた手続です。
その点で,特殊な任意整理の一種ともいえます。
もちろん,協議会の手続利用を弁護士が支援することも可能です。
借金問題の解決の目的は,生活の立て直しです。
生活を立て直して再スタートするために,今までの事業を続けるべきかどうか,ということは,よく考えていただきたいと思っています。
なぜかというと,もし負債の原因がその事業にある場合,自己破産や個人再生の手続自体はうまくいっても,事業継続で負債の原因がそのまま残ってしまいます。
これでは,かえって自身を追い詰める結果にもなりかねないからです。
もっとも,弁護士にご相談いただく前に,考えを決めておく必要はありません。
むしろ,ご相談いただいているうちに,自然とご自身の考えが見えてくる方が多いですよ。
いまり法律事務所 弁護士 圷悠樹
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