個人(自然人)にとっての自己破産手続は,経済的立ち直り,つまり生活再建と再スタートのための制度です。
ですから,生活再建のために必要不可欠な財産は,ある程度保有できる仕組みになっています。
しかし,以外と知られていないようなので,整理してみましょう。
自己破産しても保有できる財産のことを「自由財産」といいます。
この「自由財産」には2種類があります。
<本来的自由財産>
法律上,保有することが認められている類型の財産です。
破産法(34条3項)では,次の財産が「破産財団に属しない。」,つまり保有し続けることができるとされています。
「法令により差し押さえることができない財産」は,民事執行法による差押禁止財産と,その他の特別法によるものがあります。
民事執行法による差押禁止財産は,まず,差押禁止動産(民事執行法131条)があります。
具体的には以下のものです。
常識的な範囲の家財道具は,⑴にあたります。
一方,パソコンや,ピアノ等の楽器は,⑴にあたると考えるのは難しいようです。これらについては,⑾にあたらないかを検討したり,自由財産拡張制度での対応を考える場面でしょう。
⑷・⑸の,生業としての農業・漁業等に関連する物品では,農機(機械的農具・・・耕運機・農業用トラクター・稲刈機など)はケースバイケースの判断になります。農業の規模,代替できる農具の存否,地域の農業水準などから,相当な範囲であれば「農業に欠くことができない」と認められる可能性があります。
一方,漁船(20トン未満で,法律上動産と扱われるもの)は,⑸の「漁具」には含まれない,と考えられています。自由財産拡張制度での対応を考える場面でしょう。
⑹の,業務不可欠物は,業種ごとに様々でしょう。会社員,自営業者,公務員,各種専門職(医師や士業など),僧侶・神主,画家,文筆家など,それぞれに業務上不可欠な物品がありそうです。
これらはケースバイケースの判断になりますが,債務者の従来の営業方法を前提として,一般的な同業者の水準と,当該債務者の事情を考慮して,社会通念に照らして判断される,とされています。
⒀について,義手・義足以外の物品の例としては,眼鏡(ファッションでなく視覚機能を補助するもの),補聴器,車椅子,松葉杖,特殊寝台などが考えられます。
いかがでしょうか? 保有が認められている物品は,意外と幅広くある,といえるのではないでしょうか。
特に,⑷・⑸・⑹の生業等の不可欠物は,債務者の保護という側面が強く出ているといえるでしょう。
差押禁止財産には,もう一つ,差押禁止債権というタイプがあります。
物品ではなく金銭を受け取る権利(債権)で,保有し続けることができるものです。
こちらも,民事執行法によるものと,その他の特別法によるものがあります。
具体例としては,
などがあります。
これらはいずれも,特別法で差押えが禁止されています。
これら以外に,特殊な扱いがされるものがあります。
例えば退職金請求権は,一部が自由財産となり,一部が破産財団に属する,という扱いとなります。
もっとも,破産したら退職しなければならない,ということにはなりません。
退職見込みの有無や退職金見込額によっても変わってきますので,心配な場合は弁護士にご相談ください。
<自由財産拡張制度による自由財産>
裁判所の判断により,破産者の経済的立ち直りに必要な財産の保有を認める制度です。
上記の差押禁止財産に該当しない財産でも,自由財産拡張制度によって自由財産と認められれば,保有し続けることができます。
よくあるのが,生命保険等の保険契約で,解約した場合の解約返戻金の見込額がそれなりにある場合です。
破産法の条文では,次のように定められています。
つまり,この制度を利用するには,破産管財人の選任が前提になります。その分,費用の負担も生じます。
また,この制度は,各地の裁判所によって扱いに幅があります。
個別の事情と裁判所の扱いの両面でケースバイケースになるので,一律の説明がしにくいのですが,多くの裁判所では,対象財産の評価額が99万円以内の範囲で,経済的再生に必要かつ相当といえれば,自由財産として認めることが多いようです。
自由財産拡張制度により財産を保有し続けることができるかどうかは,最寄りの地域の弁護士に相談をなさるようにしてください。
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