[R2年4月16日 更新]
行動変容,していますか?
新型コロナウイルス感染症を乗り切らなければいけません。
行動変容といっても,3密回避・社会的距離戦略(social distancing)・手洗いうがい手指消毒などは個人レベルの対応ですが,事業者はより難しい対応を迫られます。
業種・業態によっては,通常の営業活動がほとんどできない場合もあります。
しかし,固定費支出がある限り売上が必要,だから簡単に営業を止められない,というディレンマに陥ります。
本稿は,解決策をはっきり示せるようなものではありませんが,少しでも新型コロナとの戦いの役に立てば幸いです。
さて,固定費といってもいろいろあります。
代表的なのは,人件費,地代家賃・リース料,公租公課などでしょう。
人件費については,経済産業省などが,雇用調整助成金の特例措置などを案内しています。以下のパンフレットなどを参照してください。
新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ(経済産業省)
具体的な対応は,社会保険労務士の方などにご相談いただくのがよいと思います。
公租公課については,国税庁が納税の猶予制度を案内しています。
新型コロナウイルス感染症の影響により納税が困難な方には猶予制度があります
国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ
日本年金機構も,厚生年金保険料等の猶予制度を案内しています。
【事業主の皆様へ】新型コロナウイルス感染症の影響により厚生年金保険料等の納付が困難となった場合の猶予制度について
具体的な対応は,税理士の方などにご相談いただくのがよいと思います。
では,地代家賃はどうでしょうか。
個人の方が新型コロナウイルス感染症の影響で失職した場合は,住居確保給付金の利用が考えられます。
住居確保給付金について
問題は,事業用不動産の賃貸借の場合です。
これについては,国土交通省が,不動産関連団体への「要請」を出しています。
新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、飲食店等のテナントの賃料の支払いについて柔軟な措置の実施を検討するよう要請しました
「要請」になっているのは,事業用不動産の賃貸借は,民間同士での契約だからですね。
また,「柔軟な措置」として例示されているのは,「賃料の支払いの猶予」です。
まずは,国土交通省の要請を手がかりに,貸主と協議される場合が多いのではないかと思います。
貸主の対応次第の面があり,貸主側の事情,特にローンの返済を抱えているかどうかによって,対応が分かれてくる可能性があります。
それでは,貸主との協議が不調の場合,何か手段があるでしょうか?
店舗,つまり事業目的の建物の賃貸借を題材に,疫病による営業不能と賃料減額請求の可否,という問題を考えてみます。
疫病は,いわゆる不可抗力の一場面と理解できます。
(法令上は営業休止を強制されていない場合に,営業不能といえるのか,という議論もありますが,ここでは触れません。法律の条文をもとに考えた方がよいからです。)
法律上,賃料減額請求の根拠条文としては,民法と借地借家法が考えられます。
まず,借地借家法の条文です。
借地借家法32条1項(借賃増減請求権・借家の場合)
建物の借賃が,土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により,土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により,又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは,契約の条件にかかわらず,当事者は,将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。
ただし,一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には,その定めに従う。
どちらかというと,土地価格の変動,物価変動,税制変更などを理由とした永続的な減額を想定した条文です。
疫病は,直接的には「経済事情の変動」とはいいにくいかもしれませんが,営業用店舗の需要が極端に落ち込んでいる=直近の家賃相場が下落している,という考え方もあり得るでしょう。
条文の本来の趣旨とはずれるかもしれませんが,この条文を根拠に借賃減額請求をして,貸主に対して協議(借地借家法32条2項)を申し入れることが考えられます。
ただこの条文のネックは,但書で「一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合」は例外となっていることです。
ただし,特約がある場合でも,いわゆる「事情変更の原則」を適用して請求を認めた事例もあります(例:横浜地判昭和39年11月28日)。
感覚的には,今回の新型コロナウィルス感染症は,まさに「事情変更」といってよい場合ではないか,と思います(ただしあくまで私見です)。
次に,民法にも,賃料減額請求の条文があります。物件の一部が損壊したときに,修繕請求とともに修繕完了までの減額を主張するような場合に使います。
民法611条1項【改正前】
賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは,賃借人は,その滅失した部分の割合に応じて,賃料の減額を請求することができる。
民法611条1項【改正後】※施行日:2020年4月1日(同日以降に締結された契約に適用されます)
賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において,それが賃借人の責に帰することができない事由によるものであるときは,賃料は,その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて,減額される。
民法改正前後で条文が変わっていますね。
改正後の条文であれば,「その他の事由により」「使用及び収益をすることができなくなった場合」も対象になります。これがとっかかりに使えそうにも思えます。
しかし,改正前の条文だと,物件の一部滅失の場合しか規定していません。
あえていえば,改正後の条文を意識して,「その他の事由により」「使用及び収益をすることができなくなった場合」にも類推適用すべきだ,と主張することでしょうか。
こちらの条文を手がかりに考えても,賃料減額請求の意思表示をして,貸主側に協議や検討を求める,という対応になると思われます。
もっとも,借主側の占有状態に変わりはないですし,貸主が借主に物件を利用させる債務を履行していないわけではありません。
貸主側にも,公租公課や修繕費などの経費は発生しますし,借入金の返済もあるかもしれません。
法的には賃料減額の請求の可否の問題と考えましたが,貸主側としても,猶予と減額では意味が異なります。
何とか利害調整で落とし所を見つけたいところです。
なお,リース契約(ファイナンス・リース型)の場合,契約上はリース料の減額などは難しいですが,支払猶予等の相談に対応する旨を表明している事業者もあるようです。
賃貸借の場合も,利害調整の余地はあるのではないかと思います。
【追記】
緊急事態宣言が発令されました。
強制力のある営業停止などはなされないとしても,「借主の責に帰することができない事由」「事情変更」などの評価を強める要素の一つにはなり得ると思われます。
【追記2】
国税庁が,4月13日付で税務上のFAQを更新して,「賃貸物件のオーナーが賃料の減額を行った場合」の項目を載せています。
国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ
貸主側の方が賃料の減額をご検討なさる場合は,事前に税理士の方にご相談いただくのがよいと思います。
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