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弁護士法人いまり法律事務所

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最判R2.2.28 使用者責任と逆求償

会社の従業員が勤務中に起こした交通事故について,従業員から会社への「逆求償」を認めた判例が出た,というように報道されていますね。

最高裁(第2小法廷)令和2年2月28日判決です。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/270/089270_hanrei.pdf

判決の要点は,次のとおりです。

被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え,その損害を賠償した場合には, 被用者は,上記諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について,使用者に対して求償することができる

ここにいう諸般の事情とは,以下のとおりです。

  • 使用者の事業の性格
    規模
  • 施設の状況
  • 被用者の業務の内容
  • 労働条件
  • 勤務態度
  • 加害行為の態様
  • 加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度
  • その他

これらに照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において,使用者に対する求償が認められる,ということです。

今回の判決は,広範に影響が及ぶ可能性がある,インパクトのある判例といえます。ただし,いくつか留保すべき点もあります。

1点目。

最高裁の判断は,高等裁判所の判決の破棄差し戻し,つまり高等裁判所にさらに審理をするよう求めたものです。
当該事件で使用者側に金銭の支払義務があるかどうかは,今後高等裁判所で審理され判断されます。

2点目。

今回の判決は,確かに同種事例にも射程が及びますが,あくまでそれぞれの事例の事実関係をもとに判断する必要があるので,事実関係によって結論が左右されることになります。
「逆」求償のパターンなら常に求償できる,という判例ではありません。

事実関係次第,という点で,本判決の事例は事実関係が特殊かもしれません。

筆者も,現時点では地裁・高裁の判決にはあたれておらず,最高裁の判決文から読み取れる範囲になりますが,例えば次のような事実関係があるようです。

  • 事業者(使用者)は,資本金300億円以上の株式会社で,業種は貨物運送であり,全国に営業所を有している
  • 事業者(使用者)は,事業に使用する全車両について任意保険未加入
  • 事故を起こした従業員(被用者)は,固定給が毎月6万円(歩合給や残業代を含めると22万円~25万円)
  • 事故を起こした従業員(被用者)は,事故後,事業者(使用者)から,罰則金名目で40万円を徴収された

   

これに加えて,最高裁の判決文では事情がはっきり分かりませんが,被害者側(被害者遺族の1人)が,訴訟を起こすにあたり,事故を起こした従業員(被用者)を被告とする(これは当然ですが)一方,事業者(使用者)を被告に加えなかったようです。
一般的には,任意保険の適用がないのであれば,被害者側としては回収可能性を高めるため使用者も被告に加えるところです。

実際,被害者遺族のうち,事業者(使用者)に対して訴訟を提起し,事業者(使用者)から賠償金を受領した方もいたようです。

なお,判決文では,被害者遺族が自賠責への被害者請求をしたかどうかもはっきりしません。

いずれもしても,事業者側がおそらくは経営方針として任意保険に未加入だったこと,従業員が単独で損害賠償請求に対応する状況になったこと,という点で特殊性がある事案といえます。

逆求償が認められる場面がどの程度あるのかについては,今後の展開を注視する必要があります。

もっとも,事業者側が任意保険未加入であったことも考慮されて上記の判断に至ったわけですから,今回の判例によって,事業者(使用者)側が事業用車両について任意保険に加入する必要性は一層高まったことは確かでしょう。

(本来,今回の判例があってもなくても,任意保険に加入することは当たり前のことだ,といいたいですが・・・)

なお,この判例は,裁判官の補足意見も非常に力が入っています。
以下,印象的な部分を引用します。

・菅野裁判官,草野裁判官の補足意見
・・・さらに付け加えると,使用者には,財務上の負担を軽減させる手段として業務上発生する事故を対象とする損害賠償責任保険に加入するという選択肢が存在するところ,被上告人は,自己の営む運送事業に関してそのような保険に加入せず,賠償金を支払うことが必要となった場合には,その都度自己資金によってこれを賄ってきたというのである(以下,このような企業の施策を「自家保険政策」という。)。
被上告人が自家保険政策を採用したのは,その企業規模の大きさ等に照らした上で,そうすることが事業目的の遂行上利益となると判断したことの結果であると考えられる。
他方で,上告人は,被上告人が自家保険政策を採ったために,企業が損害賠償責任保険に加入している通常の場合に得られるような保険制度を通じた訴訟支援等の恩恵を受けられなかったという関係にある。  
以上の点に鑑みるならば,使用者である被上告人が自家保険政策を採ってきたことは,本件における使用者と被用者の関係性を検討する上で,使用者側の負担を減少させる理由となる余地はなく,むしろ被用者側の負担の額を小さくする方向に働く要素であると考えられる。

 

・三浦裁判官の補足意見
    ・・・日常的に使用者の事業用自動車を運転して業務を行う被用者としては,その業務の性質上,自己に過失がある場合も含め交通事故等を完全に回避することが事実上困難である一方で, 自ら任意保険を締結することができないまま,重い損害賠償義務を負担しなければならないとすると,それは,被用者にとって著しく不利益で不合理なものというほかない。・・・
・・・使用者が,経営上の判断等により,任意保険を締結することなく,自らの資金によって損害賠償を行うこととしながら,かえって,被用者にその負担をさせるということは,一般に,上記の許可基準や使用者責任の趣旨,損害の公平な分担という見地からみて相当でないというべきである。・・・

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