まず最初に強調しておきたいと思いますが,いったん給与差押えがスタートしてしまうと,対処にはかなり手間がかかります。
給与差押えは法律に基づく強制執行手続の一種なので,根拠がなければストップすることはできません。
以下に述べるとおり,給与差押えに対してはいくつかの対処方法がありますが,すぐには手続を止められません。
また,対処方法といっても,対症療法的な対応(つまり強制執行手続だけを止める方法)はあまりありません。
強制執行の根拠となっている債務について,抜本的な解決をする対応が基本です。
ですから,実際に給与差押えをされる前に,債務の整理に着手するのが望ましいといえます。
さて,その上で,実際に給与差押えをされてしまった場合の対応を説明します。
まず,強制執行手続には法律上問題がないものの,給与差押えを止めたい場合を考えます。
ほとんどの場面は,こちらのパターンになると思います。
強制執行手続には法律上問題がないわけですから,根拠なしにストップすることはできません。
強制執行の根拠となっている債務を解決するのが,セオリーです。
具体的には,自己破産や個人再生の手続をとることです。
自己破産の場合,裁判所に申立てをして,破産手続を進めることで,強制執行手続を止めることができます。
(例外として,租税等の滞納処分は,開始決定までに既になされている場合はそのまま続行できます)
具体的にどう進めるかは,破産手続の進行の仕方により異なります。
⑴自己破産の場合1:財産が特になく,免責不許可事由もないため,破産手続が早期に終了する場合(同時廃止事件の場合)
破産手続開始決定(兼手続廃止決定)の時点で,進行中の強制執行手続が「中止」します。
この段階では,強制執行手続が消滅するわけではありません。
強制執行の停止中は,給与全額を受け取れるわけではなく,差押え部分の給与は,勤務先が手元保管するか,法務局に供託することになります。
免責決定がなされ,確定した時点で,強制執行手続が「失効」します。
差押え部分の給与を,勤務先から受領するか,法務局から供託金の還付を受けることができるのは,この段階になってからです。
⑵自己破産の場合2:一定の財産がある,免責不許可事由があるなどで,破産管財人が選任される場合(管財事件の場合)
破産手続開始決定によって,強制執行手続が「失効」します。
通常は,破産管財人から,強制執行手続を終了させる手続を行います。
ただし,管財事件の場合,そもそも破産手続開始決定が出るまでの間が問題です。
破産管財人の選任のため,相当額の予納金を納付する必要があり,納付後に開始決定が出るのが通常だからです。
つまり,予納金を納付してからでなければ,開始決定がされません。
裁判所によっては,一定期間内での予納金の積立てを認めてくれますが,積立期間中は開始決定が出ず,強制執行手続を失効させられません。
予納金の納付前,つまり破産手続開始決定前に,強制執行手続を止める方法として,
強制執行手続の中止命令の申立て
があります。
ただし,中止の必要性の疎明が必要になります。
また,この場合にも,強制執行手続が「中止」になるだけなので,その時点では給与全額を受け取れるようにはなりません。
⑶個人再生の場合
個人再生の場合は,進行中の強制執行手続は,再生手続開始決定の時点で「中止」し,再生計画認可決定が確定した時点で「失効」します。
さて,例外的な場面ですが,強制執行手続に何らかの問題がある場合で,強制執行手続を止めたい場合もあり得ます。
問題がある強制執行手続がなされる,という状況にも,パターンがいくつかあります。
例えば,消滅時効が成立している場合,既に完済している場合など,請求の根拠となる債務が消滅している場合を考えます。
この場合には,「請求異議の訴え」を提起して,強制執行の根拠となっている判決等(債務名義といいます)の失効を確定することになります。
請求異議の訴えの提起に伴い,裁判所に,「執行停止」の裁判をしてもらうことで,進行中の強制執行手続を停止することができます。
ただし,自己破産や個人再生の場合の「中止」と同様,その時点では給与全額を受け取れるようにならず,差押え部分は勤務先の手元保管か法務局への供託になります。
裁判を進め,裁判所の判決で債務名義の失効が判断され,判決が確定すれば,強制執行手続が失効になり,給与全額を受け取れるようになります。
以上から分かるとおり,いったん強制執行手続が始まってしまうと,これを失効させて給与全額を受け取れるようになるまでには,相当の時間と労力が必要になります。
そもそもそうした事態に陥らないこと,早期に借金の整理に着手することが最善の方策であること,ぜひこのことをご理解いただきたいと思います。
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